研究概要 |
本研究では, 衣服材料中での水分の移動の機構を解明することを目的として, 人体からの発汗などの具体的な現象を想定して, 特に透湿の過渡現象に注目して研究を行った. その目的達成のために, まず布表面での湿度条件が急激に変化したときの, 透湿が定帯状態に達するまでの過渡現象を正確に測定できる装置を製作した. この装置の製作に当たっては, 布の両表面に一定湿度の空気を一定流量で循環させ, その空気の湿度の変化を測定することによって水分の移動量を求めるという方法を用いた. この方法を用いることによって透湿量の測定に要する時間を大幅に短縮し, 透湿の過渡現象が満足に測定できるようになった. また装置の製作と並行して, 布の透湿機構を理論的に解明するために拡散の理論を応用して, 布の透湿挙動を3成分複合系における拡散現象として解析した. すなわち布をたて糸, よこ糸, 空気の3成分からなる複合系であると見なして, まず布の織構造をモデル化し, このモデルに基づいて複合系の拡散の理論的解析から布の透湿係数を計算によって求めることを試みた. 市販の数種の綿布をモデルとして, このようにして得られた透湿係数の値を実測値と比較すると, 平織の布についてはその値がかなりよく一致するが, 織密度の大きい斜文織の布については計算値の方がやヽ小さな値を示すという結果が得られた. これは織密度の大きい斜文織の布では, 布面に斜方向に直通気孔が存在し, これが実測された透湿係数に大きな影響を与えているためであると考えられ, 今後さらに2次元, 3次元的に水分の移動を考えていく必要があると考えられる. また本研究では, 理論的解析については定常状態についてのみの解析となったが, 今後過渡現象についても解析するために, こヽで得られた布の構造モデルを基にして, 例えば有限要素法などを用いてさらに研究を続けていく予定である.
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