研究概要 |
パルスラジオリシス法により, 被照射アルカリハライド融体中に生成する放射線分解初期生成物を調べ以下の結果を得た. 1)溶融塩パルスラジオリシス体系の作製:既存のパルスラジオリシス体系を溶融塩に適用できるように改良し, 現在700°Cまでの実験が可能となった. マイクロコンピュータの導入により, データの取得・解析を自動化した. 2)Licl-Kcl系のパルスラジオリシス:紫外部と可視部に極大を有する過渡的考吸収スペクトルを見い出した. これ等のスペクトルの組成依存性・温度依存性を調べ, 更に添加物効果を研究した. その結果, 可視部の吸収バンドは溶媒和電子l_s^-に, 紫外部の吸収バンドはCl<-(1)2>に帰属された. さらに, l_s^-及びCl<-(1)2>がほとんど減衰した後に紫外部にわずかな吸収の残存を観測した. この吸収はCl<-(1)3>に帰属させることができる. 溶媒和電子の吸収極大波長から求めた遷移エネルギーと融体中の平均イオン間距離との関係を調べ, 吸収スペクトルの組成依存性, 温度依存性に対して妥当な説明を与えた. しかし, 電子が局在化しているサイトに関する, より詳細な理解のためには, さらに実験が必要である. 3)LiBr-KBr系のパルスラジオリシス:LiBr-KBr共融混合物融体の時間依存スペクトルの測定から, 紫外部領域にBr_2^-の他にBr_3^-に帰属させ得る新たなスペクトルを見い出した. この実験はCl<-(1)3>の存在を確証するものである. 4)LiBr-NaF-KF系のパルスラジオリシス:この実験ではl_s^-に帰属しうる可視部の吸収バンドの他に, 300μm以下にも吸収バンドを観測した. このバンドは塩化物, 臭化物系におけるパルスラジオリシスの結果との比較によりF_2^-イオンに帰属させ得る. 以上, アルカリハライド融体のパルスラジオリシス実験の結果, 放射線分解で生成される初期生成物として, ls^-, X_2^-, X_3^-の存在が観測され, 実験結果をよく説明しうる反応機構について議論することができた.
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