研究概要 |
放射線スペクトル測定データのエネルギー分解能を数値的に補正向上させる手法を開発し, 実際の測定データを模擬したモデルにこれを当てはめ, その有効性を確認すると共に, 測定データの統計的なばらつきと分解能補正の限界の間に存在する不確定性関係についての検討を含む, 本手法の適用限界の考察を行なった. 真のスペクトルデータは, 測定系に固有な応答関数(分解能劣化関数)を通して測定されるが, γ線スペクトロメータでは実測によりこの関数はピーク近傍ではわずかに非対称性を持つものの, ガウス関数とみなすことができるので, モデル計算ではこれを採用した. そしてこの関数による重畳積分で表される成分に対して分解能の補正を行った. 用いた解析手法は, ベイズの定理を基本とした確率論的手法であり, 初期推定値は測定データをそのまま用いた. また, この種の問題でよく生ずる振動と非負性の問題を解決するために, 相関を有する対数正規分布を確率密度関数として用いた. 始めに, ラインスペクトルを真のピークと仮定し, これを分解能劣化関数で交換して理想的な測定データを作成し, これを密度関数として作成した種々の統計精度を有する模擬測定データの分解能を補正した. この結果, 振動が生ずることなく分解能は向上し, その補正限界は測定データの分解能方向の不確定性に強く関係していることが分った. 次に, 2つのピークが複合したスペクトルデータに対する補正を行った. 初期共分散情報を逆ワイヤシュトラウス変換を応用することにより, 通常測定され裾の部分が重なりあった程度のデータでは十分な補正が可能であり, 本手法による分離・分解の限界は, 精度の良い測定データでピーク間距離が分解能(1α), ピーク強度比が2倍前後であることが分った. 尚, 分解能補正計算は測定データのI/0がリアルタイムで可能なマイクロ・コピューター(PC-9801XA)で行ない, 計算時間は約2分であった.
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