研究概要 |
1)海岸から約40Km内陸のS-25地点で採取した積雪試料で表面から深さ50cmまでにわたる各種化学成分の分布を調べた. 雪尺によれば, この試料はほぼ1年弱をカバーしている. 主成分の中で最も特徴的な分布をしているのはNa^+とClで, これらは表面(1986年2月1日)から深さ37cm(1985年2月)までそれぞれ約800ppbおよび450ppbの高い一定値を示すが, 深さ37cm以深ではそれぞれ約200ppbおよび100ppbの低い一定値を示す. これらのNa^+/Cl^-比は約0.5で, 海塩起源と思われる. 従来の報告では, 南極の多くの地点で海塩起源のエアロゾル濃度は夏に高く, 冬に低いが, 季節との関連は単純ではなく, 何か明確なメカニズムに対応していると予想される. NO_3^-は春に高いピークを示す. 2)Fe, Al, ZnおよびCuなどの重金属元素は, はじめて無機態と有機態, および不溶態の3種の存在状態に分けて分布を測定した. これらの全濃度はそれぞれ約300ppt, 500ppt, 500ppt, および100pptで, 主成分とは対照的に非常に激しい変化を示し, しかも高い全濃度のほとんどは高い有機態濃度と一致していた. このように南極の雪氷中に有機態の重金属元素が相当な濃度で存在し, しかもそれが複雑な変動を示すことは初めて得られた知見である. これらの有機態重金属は南極氷床中の主成分とは異なる起源と供給経路をもつと考えられ, 上部対流圏を通して供給されている可能性もある. 3)これらの有機態重金属元素は生物の合成したものであると考えられ, さらに我々の研究によれば南極大気や海上および陸上の大気エアロゾル中にも含まれているので地球の大気中に広く分布していると考えられる. その南極氷床中での分布は過去における生物の活動または地球環境の変動の歴史を示すと予想され, 今後さらに研究を継続することが必要である.
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