研究概要 |
本研究は, エネルギー変換・貯蔵の観点から重要なn型酸化物半導体電極上での光酸素発生反応に, 我々の開発したin situ表面発光分光法を適用し, その分子論的機構を解明し, さらには, 一般の電気化学的酸素発生反応に対して高活性の電極材料を探索する指針を得ることを目的として行なった. まず, 半導体電極としてn型TiO_2電極を用い, この電極上での光酸素発生反応を実験的に詳しく調べた. この結果, pHが12より小さい溶液中では, この反応は, 従来から言われているように, 電極表面に吸収したOH^-イオンが光で生成した正孔により酸化され, 吸着・OHラジカルを生じ, これから過酸化水素H_2O_2, さらに酸素O_2できるというように進行するのではなく, OH^-イオンがまずTiO_2電極バルク内に侵入し, ついで正孔で酸化されて・OHラジカルを生じ, この電極バルク内に生成した・OHラジカルがさらに正孔で酸化されて酸素が発生するという機構で進行することが明らかになった. 電極内部へのOH^-イオンの侵入は, ルチル型TiO_2結晶のC軸に平行に存在するチャンネルを通じて起こるとされた. さらに, このような実験結果を踏まえて, 上述の機構について理論的考察を行ない, OH^-イオンがTiO_2内に侵入できること, バルク内に侵入したOH-イオンは吸着OH^-イオンより酸化され易いことなどを示し, この機構の合理性を立証した. かくして, この新しい機構が実験的ならびに理論的にほぼ確立された. この新しい機構は, 反応中間体が電極内部に生じるという従来にない全く新しい概念を提示し, 学問的に大変興味深いが, それだけでなく, こういう新しい概念をもとにした電極材料の再検討により高活性の電極材料の発見も可能になると考えられ, 実用上からも興味深い. さらに, 表面発光法によってこのような新しい機構が明らかにされたことは, この方法の有効性を明確に示したものであり, この意味からも非常に意義深い.
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