研究概要 |
本研究は軟X線励起の特異性に着目して, 超高真空下で固体表面に吸着した分子の光化学反応を, 電子分光や質量分析法を駆使して詳しく調べることにより, 化学反応を自由に制御する新しい手法の開発を目指すものであり, 以下の成果を得た. 1.本研究目的を遂行するために必要である主要実験装置として表面素反応用実験装置の設計・製作を行った. 本装置には当該研究所の現有設備品である低速電子線回析計, オージェ電子分光器, 質量分析計を有機的に取付けVUV・軟X線ビームラインでの実験が可能である. 製作には, ほぼ1年を要したが, 到達真空度(1.5×10^<-10>Torr), 各種測定装置の作動はすべて良好であった. 2.軟X線ビームラインにおいて以下の実験を行った. (1)Si基板にPMMAなどのレジストを塗布した試料を使用して, 光照射により表面より脱離する分解生成物の質量スペクトルを測定した. この実験により脱離分子の検出感度を極限にまで高めることができた. (2)銅の表面に吸着した酸素分子を試料として, 酸素のオージェ電子と酸素イオンの両者の検出に成功した. また入射光の分解能が悪いため高分解能の測定は得られなかったが, しきい電子スペクトルも観測できた. (3)励起光の波長を酸素原子の内殻の吸収端の前後で変えて, (2)の実験を行い, 銅表面上での光断片化反応が, 吸収端の前後で大きな差を示すことを見いだした. 軟X線による内殻励起では, 特定の原子だけを励起しその後のオージェ過程を経て分解反応が起るため, 外殻電子励起での分解反応と明らかに様相を異にしている. この結果より, 反応を制御する新しい手法の見通しが得られた.
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