研究概要 |
アルキルトランスファー反応が種々の要因で加速される際に, その遷移状態構造がどの様に変化するかを明らかにする目的で, 主として反応速度同位体効果を用いて研究を進めた. また, 得られた知見をもとにして, 有効な合成反応を設計した. 1.電子効果による加速がベンジルおよびメチルトランスファーの遷移状態に及ぼす影響を, 炭素-13, 14, α-2次重水素, 求核種窒素-15等の反応速度同位体効果で調べた. 遷移状態はダイヤグラム上の動きとして整合性よく理解されたが, 一般にベンジル系はメチル系よりも大きな変化を示し, 特に反応座標に垂直な方向の動きが特徴的である. 2.相間移動触媒によって加速される反応の遷移状態の構造は, 水和による減速によって活性化パラメータに現われる変化を示したが, α-2次重水素効果では変化は検出されず, Tightnessは変わらないと結論された. 3.溶媒効果による加速は大きいにもかかわらず, α重水素効果も炭素-13効果も変化は小さい. 従って, 遷移状態の内部構造には大きな変化は起こっていないと考えられる. 4.隣接基関与による加速を伴う反応の遷移状態構造は, 本質的には分子間求核種による置換反応のそれと等しく, その構造は関与原子によってほぼ決定され, 電子の種類や環員数の影響は2次的である. 5.無機固体担持試薬における液-固二相反応の加速は, 微量の水の添加で極大を示す. これは二相間に極性の高い「オメガ相」が生じ, そこでは求核種が不十分に水和され活性なためと解釈できる. この不十分水和による活性状態を利用して, 固体活性塩基による触媒および化学量論的反応, 求核置換反応, 求電子付加反応を設計, 開発した. また, 選択性の合目的的調節についても可能性を確認した.
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