研究概要 |
本研究の目的は交互に結晶を周期的に積層した人工格子結晶を合成し, 新材料を開発するための基礎データを得ることにある. この研究で良質の人工超格子単結晶を合成し, その構造を調べ, 物性との関連を正確に把握することに努めた. 蒸着法によれば, 蒸着速度(Dr), 基板温度(Ts), 基板結晶, および蒸着時の雰囲気を適正に選ぶことにより, 良質の単結晶が育成でき, 人工格子に関する結晶成長, 構造および磁性について次のような知見を得た. 1 蒸着法による単結晶成長の最適条件は適当な基板, 遅い蒸着速度(Dr), 吸着分子が表面で拡散し得る基板温度である. 例えば真空蒸着によるPbSe/SnSe作製の最適条件は岩塩基板温度が150゜C, Drが1A2F2(コード)/Sである. 反応性蒸着法によるCoO/NiOのそれは, サファイヤ基板200゜C, Dr≦1A2F2(コード)/S, Po2=10^<-4>Torrである. この条件で, 結晶は層状成長し, 人工格子を1原子層単位で積層できる. 2 人工超格子の結晶性は各層の厚さが現象するほど向上する. これは, ミスフィットのある結晶がエピタキシャル成長する場合, 数原子層までは基板結晶と同じ格子をとり, 結晶全体に均一な弾性歪として吸収されるためである. 各層が厚くなると界面に不一致転移や歪が集中し, 結晶性が乱れる. 3 人工格子(PbSe)m(SnSe)nはm≦b, n>(2/3)mではSnSe構造, n≦4, n<(2/3)mでは, PbSeの構造をとり, m>12, n>4ではそれぞれバルクの構造をもつ結晶の積層であった. 4 (111)面で積層した人工格子(CoO)m(NiO)nの各層は菱面体構造に変化し, その結果, 結晶の反強磁性スピンは基板と平行な(111)面内に配列し, 中性子回折磁気散乱ピーク強度はNiOの5倍以上に増加する. 反強磁性転移点はm, n≦4では1つであるが, m, nが大きくなると, 2つの磁気転移点を示す磁性相に分れる. 以上のことからNiO層とCoO層に磁気的なコヒーレンスがみられるのはm, n≦8であると考えられる.
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