研究概要 |
天然型ヘムタンパク質のヘムを鉄以外の種々の遷移金属に置換した金属置換ヘムタンパク質やヘムをクロリン鉄錯体に置換したグリーンヘムタンパク質の物理化学的諸性質や機能などの詳細に検討した. ヘム鉄をモリブデンオキソ(M_O=O)やタングステンオキソ(W=O)に置換したミオグロビンならびに西洋わさびペルオキシダーゼの酸化状態(5価)と還元状態(4価)の相対安定性を比較して, ペルオキシダーゼの方がミオグロビンよりも高酸化状態を安定化するという結果を得た. ヘム鉄をニッケル(2価)で置換したニッケル置換ミオグロビンとペルオキシダーゼの一電子酸化生成物を検討したところ, いずれのタンパク質においてもニッケル(II)ポルフィリンπカチオンラジカルの生成が認められたが, ペルオキシダーゼの方がミオグロビンにくらべてより安定であった. ペルオキシダーゼがポルフィリンπカチオンラジカルを安定化する構造因子をもつためであろうと考えられる. 次いで, ヘム鉄をルテニウム(II)に置換したヘモグロビンの性質を検討した. ルテニウムヘムは一酸化炭素と極めて安定に結合し, このためヘモグロビンのサブユニットのうちの一方をRu(II)COヘム, 他方を天然型のデオキシヘムに保ったハイブリット型ヘモグロビンが安定に生成する. その4次構造は, 全く配位子の結合していないデオキシヘモグロビンに特有のT状態に保持されたままであることが判明した. クロリン再構成ミオグロビンを詳細に研究した結果, リガンド結合能などを制御している構造因子は, 活性中心であるヘム自身よりも, そのヘム近傍構造, とくに遠位ヒスチジンの立体配座が重要であるとの結論を得た. また天然に存在するクロリン含有ヘムタンパク質であるスルフミオグロビンの特異な活性中心の構造も決定することができた.
|