研究概要 |
物質が液晶相を形成するための必要条件は, 構成分子が特有の異方性を有することである. 一方, 異方性の低い鎖状分子, 例へばメチレン連鎖などは, 液晶場中におかれると異方性が強まる. 分子間力の推定には, 液晶中での分子の異方性に関する正しい知識が必要である. 等方相中と異方相中で分子形態に変化のない剛直なメソゲンについては, 溶液中で直接分極率異方性を求めることができるが, 環境によって分子配向の変わる柔軟な鎖状部分については, 各結合に固有の分極テンソルの加成性に基づいて, 許されるコンホマーの平均として計算で求めることが必要である. 液晶分子間に働くLondon分散力による相互作用の異方性部分は, 液晶相と等方相の比として, ε°orient/Eiso=δ(△α/α^^-)^2で表わされる. こゝで, △αは液晶相における分子の分極率異方性, α^^-は平均分極率, δ^-は定数である. △αを測定することによりε°orient求まり, この知見にもとづいて, 液晶の相転移におけるエンタルピー変化などの分子論的解明が可能となる. 本研究では, 測定の難易, 精度などを考慮して偏光解消レーリー散乱法(DRS)を採用した. 61年度においてDRS装置の改修(フィルター系)と設置を完了し, 62年度には, まず測定精度の信頼度を確認する目的もあり, 側鎖形態の異なる一連のジペプチド化合物について光学異方性の測定を行った. 引き続き, 典型的な液晶物質であるPAAならびにMBBAについて光学異方性を測定し概報の文献値をほヾ再現する結果を得た. 剛直なメソゲンの片末端に柔軟なアルキル鎖を連結したアルキルシアノビフェニル(nCB)については, 重水素NMR法によるアルキル部分のコンホメーション解析の結果にもとづいて分極率異方性の計算を行い, 実例の相転移挙動とよく対応することを見出し, 本研究で提案した解析手法の有効性を確認することができた.
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