研究概要 |
シアン化ビニリデン系の共重合体のあるものは非晶状態にもかかわらず高い圧電性を示し, あるものは示さないという理由を原子・分子のレベルから明らかにし, より優れた高分子圧電体を開発するための分子設計上の基礎的知見を得ることがこの研究の目的である. シアン化ビニリデン系共重合体の圧電性は高極性のシアノ基によることは明白であるが, シアノ基の存在だけで圧電性の大小を説明することはできない. この研究では, 高い圧電性を示すシアン化ビニリデン/酢酸ビニル共重合体, シアン化ビニリデン/安息香酸ビニル共重合体と, これらとよく似た化学構造を持つにもかかわらずほとんど圧電性を示さないシアン化ビニリデン/メタクリル酸メチル共重合体およびシアン化ビニリデン/スチレン共重合体について, 微細構造, コンフォメーションおよび動的性質を調べ, 圧電性発現を検討した. ^<13>C-NMRスペクトルからこれらの共重合体はいずれもほぼ完全に近い交互性を持つ共重合体であり, 側鎖の立体配置はランダムであることがわかった. すなわち, これらの共重合体の圧電性の大小は微細構造から説明することはできない. 1H-NMRスペクトルから共重合体の主鎖コンフォメーションを決定した結果, シアノ基が空間的に一方向に配向する主鎖コンフォメーションの存在確率が高圧電性共重合体では極めて大きいことを認めた. 固体状態でのエンタルピー緩和を示差走査熱量計により, 回転系の核磁気緩和時間を固体高分解能^<13>C-NMR法によりそれぞれ測定し, これら共重合体の動的性質を調べた. その結果, 共重合体鎖の屈曲性(分子運動性)および分子鎖充鎮状態は圧電性の発現に関係する重要な因子となっていることが示唆された. これらの結果は圧電性が, 共重合体の化学構造, フィルム成形条件, 分極および熱処理の条件に強く依存することを示す.
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