研究概要 |
不斉要素のない, 嵩高いエステル基を持つメタクリル酸モノマーの不斉アニオン重合に於けるコンホメーション規制に, 極めて高い立体選択性を示す重合触媒の構築に成功した. 即ち光学活性なビフェニル, ビナフチル, 或は酒石酸から誘導されるC2キラルな置換基で修飾したテトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)誘導体を新規合成した. これらの不斉配位子と種々の有機リチウム化合物を組み合わせた触媒を用いて, メタクリル酸トリフェニルメチル(TrMA)をトルエン中, -78°Cで重合すると高い施光度を示すポリマーが得られる. ポリマーの施光度は用いた配位子の構造に強く依存する. 配位子の不斉な置換基としては, 不斉炭素による酒石酸誘導体より軸不斉を有するアビリルのほうが高い選択性を示す. 片側のジメチルアミノ基だけにキラルな置換基を導入したTMEDA誘導体と, その両側置換体とでは逆の立体選択性を示す. これらの一見複雑な結果も対カチオンに配位した不斉配位子に対して成長末端カルバニオンが採る熱力学的により安定な立体配置を考えると説明でき, 配位子のC2キラリティーと優先するポリマーのヘリシティーとの間には単一の立体化学的な関係が成立していた. ビフェニル片側置換体はTrMAばかりでなく, その2-ビリジル誘導体の重合の何れでも高い立体選択性を示す. 定量的に得られたこれらのポリマーはほぼ完全に一方巻の螺旋構造を有し, 且つ有機溶剤に溶け得る程度の適度な重合度になる. また, 配位子の立体配置を変えて得られる+と-のポリマーは互いに鏡像体である. しかし嵩高くないメタクリル酸メチル, ベンジルを重合しても有意な施光性を示すポリマーは得られないことから, これらのイソタクトポリマーが溶液中で螺旋構造をとる可能性について我々は現時点で否定的な見解を持っている. 上記のポリマーのうち溶媒可溶で光学活性なものからは高効率な光学分割用HPLCのキラル充填剤を調製することができた.
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