研究概要 |
自己組織性の大きい2分子膜を利用して新規有機磁性薄膜を開発するための基礎として, まず金属イオン配位基をもつ種々の膜化合物を合成し, それらの水中での集合特性を明らかにした. 親水部にサイクラムまたはβ-ジケトン基および疎水部にジベンゾイルメタン基をもつ一本鎖型両親媒性化合物のいずれも, 適切な分子設計により2分子膜を形成させることが出来た. これらの配位性2分子膜は銅(II)と安定な2:1錯体を与え, 得られた銅錯体は相転移性, 会合形態などが変化するものの膜構造が失われることはない. また, 錯化にともなう膜内分子配向の変化は, テール長, スペーサ長などの膜分子の構成に強く依存した. 混合膜では錯化により相分離が促進される例もあった. 以上の2分子膜金属錯体の集合特性を基礎として, 粉末サンプルについて金属間相互作用をESRスペクトルにより検討した. いずれの系でも, スペクトルに超微細構造が明確に認められず, スピン間双極子相互作用に基づく幅広いシグナルを与えた. しかし, 大過剰の反磁性マトリックス膜で希釈すると単核銅(II)錯体に特徴的な超微細構造が出現した. ファラディ法による磁化率測定を行うと, 液体チッ素温度から室温にかけてCurie-Weiss則に従う値を示し, 負に大きなWeiss定数を与えた. 疎水部に錯体基を持つ2分子膜ではこの傾向がとくに大きくなり-27OKに達した. これらの結果は金属錯体間に極めて大きい反強磁性的相互作用が存在することを示し, 2分子膜の2次元的分子配列が金属イオンのスピン間相互作用を増大させるために有利であることが分った. 一方, 2分子膜金属をキャスト法により固定薄膜化すると, フィルム内での錯体の巨視的な配向が膜や錯体の分子構造に応じて変動し, 設計可能であることが明らかとなった.
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