研究概要 |
真核生物では, 遺伝情報の転写と翻訳の段階が, 時間的にも場所的にも異なっており, 原核生物に比し, 翻訳制御の重要性が増大する. これまで, 開始因子eIF-2のリン酸化による翻訳制御系等が知られていたが, 伸長因子EF-1をめぐる翻訳制御機構は全く不明であった. 筆者は, 真核生物のEF-1が, α, β, β′およびγより構成され,αおよびββ′γがそれぞれ, 原核生物のTuおよびTsに相当すること, βがリン酸化されること等を明らかにしたので, 本研究において, βのリン酸化に関与するβ-kinase, および脱リン酸化に関与するβ-phosphataseを精製し, EF-1のリン酸化の役割を追求した. コムギ胚芽より精製したβ-kinaseは, 94kDで, 53および35kDのサブユニットから構成され, ATPおよびGTPをリン酸基供与体とし, βのスレオニンおよびセリンをリン酸化した. 次に, 〔32P〕ββ′γを基質として, カイコ絹糸腺より, 35および24kDのサブユニットより成るβ-phosphataseを精製し, 諸性質を明らかにした. この酵素は, ββ′γ(P)の脱リン酸化を強く触媒し, カゼイン(P)およびホスビチン(P)も脱リン酸化した. 大変興味深いことに, native-ββ´γをβ-kinaseでリン酸化すると, タンパク質生合成促進活性が2倍以上上昇し, β-phosphataseで処理すると活性が殆ど消失した. 失活したββ′γは, β-kinaseによる再リン酸化で活性が回復した. さらに, βのリン酸化により, α. GDPと外部のGTPとの交換反応が促進された結果, タンパク質生合成が促進されることが明確となった. 以上のEF-1活性制御系は, eIF-2をめぐる活性制御系とは全く異なる「新翻訳制御系」であり, 両者の分子機構および生理的機能の比較から, タンパク質生合成制御に関する全体像が確立できるものと期待される.
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