研究概要 |
乾燥種子中の膜酵素の形状特性を明らかにするため, まずその対象とする膜酵素の他の高等植物器官での形状を解析した. すなわち, チトクロムオキシターゼ, F1F0ATPase, 原形質膜ATPaseおよびグリオキシソーム膜リパーゼについて, サツマイモ塊根, ヤエナリ胚軸および発芽ヒマ種子胚乳を用いて, これらの酵素の構造と生合成機構を解析した. そして, チトクロムオキシターゼは7種, F1ATPaseは6種, 原形質膜ATPaseは3種, リパーゼの1種のサブユニットからなることを明らかにした. また, これらの酵素またはサブユニットに対する抗体を調製すると共に, これらの抗体を用いてin vitroタンパク質合成系を用いて, これらの酵素またはサブユニットの生合成機構, 特にそれぞれの膜への局在化機構について研究し, いくつかの場合についてこれらの機構を推定した. ついで, これらの知見および抗体を用いて, これらの酵素またはサブユニットが乾燥種子中でぞのような分子形状で存在しているかを検討した. その結果, チトクロムオキシターゼに関しては, ミトコンドリア遺伝子系支配であるサブユニットIVおよび核遺伝子系支配であるサブユニットV群が可溶性の形で他のサブユニットとは会合していない遊離の形で存在していることが示唆された. またF1ATPaseも, F0部と結合していない形で存在していることが示唆された. 原形質膜ATPaseについては, 調製した抗体の力価が弱く, 乾燥種子中の存在様式についての確実なデータが得られなかった. また, リパーゼは乾燥種子中には存在せず, 種子吸水と共に合成されることを明らかにした. 一方, 乾燥種子から核を無傷のまま単離する方法を確立し, 吸水発芽中の種子からの単離核と比較した. その結果, 乾燥種子核は転写活性を有さず, 密度が高く, 大きさが小さいことが明らかになった.
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