研究概要 |
カイコ蛾頭部から2種類の前胸腺刺激ホルモン(22K-PTTHと4K-PTTH, ただし後者はボンビキシンと改名した. )を単離した. 22K-PTTHはカイコ前胸腺を活性化してエクジソンの合成と分泌を促すが, 複数存在する分子種のうち一分子種を単離し, そのN末端アミノ酸配列を13残基まで決定できた. その部分配列には脊椎動物のペプチドホルモンとの相同性は認められなかった. ボンビキシンはエリ蚕の前胸腺を活性化するペプチドで, 20残基のA鎖と28残基のB鎖がジスルフィド架橋を介して結合した2本鎖構造を有し, 脊椎動物のインスリンとアミノ酸配列に約40%の相同性がある. ボンビキシンのジスルフィド結合の様式を明らかにするために, ボンビキシンIIを用いてサーモリシン消化し, 2種のシスチンペプチドを得た. それらの配列分析の結果, そのうちの1種の配列からA_<20>-B_<22>の結合が明らかになった. 他の1種は2つのシスチンを含んでいたため, 直接ジスルフィド結合様式を決定できなかったので, 可能性のある3種類のシスチンペプチドを全て合成し, 天然由来のシスチンペプチドとHPLCで比較したところ, そのうちの1つと一致したことから, A6-A11, A7-B10の結合が明らかとなった. このようにして決定された3対のジスルフィド結合の結合様式はインスリンのそれと全く一致した. インスリンとのこのような高い相同性からボンビキシンの三次構造を既にX線結晶構造解析から立体構造が明らかになっているインスリンの構造を基礎にして推定した. その結果, 一次配列が類似しているにもかかわらず, 分子表面の構造には両者でかなり異っており, これが生物活性の違いの原因になっていると考えられた. A鎖N末端のデカペプチドを合成し, ウシ血清アルブミンに結合させ, これに対するモノクローナル抗体を作製した. 免疫組織化学の結果から, ボンビキシンは間脳部の4対の神経分泌細胞で生産されると推定された.
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