研究概要 |
安定な脂質平面二分子膜を作成する手法を確立し, 機能性タクパク質を埋め込んで薬物一受容体相互作用を検討することが, 本研究の目的である. この問題を解決するためには, まず生きている細胞の生体膜の持つ自己修復能のメカニズムを明らかにし, 膜が自己組織するのに必要な熱力学的条件を見つけることが重要である. そこで, (a)真性粘菌変形体の細胞膜の損傷に対する自己修復能を検討したところ, その原形質の中には膜形成に必要な脂質の供給源として, 多数の液胞が存在しており, また膜の形成にはカルシュウムイオンが必須であることがわかった. そこで, これらの知見を参考にして脂質平面二分子膜を作り, (b)単離した骨格筋小胞体膜及びテトラヒメナの繊毛膜を人工脂質平面膜に融合させた試料を用いての膜興奮とカルシュウムチャンネルの機能との関係を検討したところ, 前者には膜電位非依存性の, 後者には膜電位依存性のカルシュウムチャンネルがあることが明らかとなった. さらに (c)これらに対する薬物の効果を検討したそところ, カフェインはそれ自身に膜に作用しカルシュウムを遊離させる効果があることがわかったので, (d)in vivoで膜自体の変化が生理的の機能をもつケースがあるかどうか検討するため, 骨格筋収縮時の筋細胞内膜系の超微細膜構造変化を観察したところ, T管系は電気的興奮によりまずその形態が丸く膨れて筋小胞体との接触がきわめて局所的になり(このとき張力が立ち上がる), ついで両者が離れて, 筋小胞体膜は網目状になることがわかり, 膜構造の動的な変化が筋細胞内の情報伝達に重要な働きをしていることが明らかとなった. このように, 本研究は, 生体膜及び膜蛋白の動的な構造変化と機能のあいだに重要な関連性があることを明らかにした.
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