研究概要 |
細菌細胞の複製-成長と分裂-に重要な働きをするペプチドグリカン合成酵素:ペニシリン結合蛋白質(PBPと略す)の構造とその発現調節の機構を明らかにし, 併せてPBP遺伝子の進化の由来を推定することを目的として, まず大腸菌のPBPの結晶化, 結晶解析による構造解析を試みた. 穏和迅速な操作で多量の大腸菌PBP-IB-γ成分を純粋に得る方法を確立した結果, 疏水性膜蛋白質を界面活性剤存在下に結晶化することに成功し, 続いて低分子量PBP-5の結晶化にも成功し, 共にX線結晶解析に進んだが, これらの成果によってペニシリン系薬剤(β-ラクタク抗生物質)の高次構造レベルでのデザイニングの可能性が開かれたと思われる. PBP遺伝子及び同機能の発現に関しては数個の遺伝子群に属する遺伝子の関与が考えられ, 大腸菌染色体地図上2分のmra領域, 15分のmrd領域, 71分のmre領域に属する遺伝子解析とDNA塩基配列決定を試み, 相当程度に目的を達した. 即ち17kbmra領域の遺伝子解析によってほゞこの領域を埋め盡し, 15kbmrd領域及び14kbmre領域ほゞ全域の遺伝子解析及びDNA塩基配列決定を行った. また緑膿菌のPBP-5がペニシリナーゼ誘導に重要な機能を持つことを明らかにした. 黄色ブドウ球菌のβ-ラクタム高度耐性菌(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)の標記の耐性を荷なっていると考えられる新しいβ-ラクタム誘導性, β-ラクタム耐性のPBPの遺伝子をクローン化し, DNA塩基配列決定を行った. その結果, この遺伝子は二段階の遺伝子融合, すなわち(1)トランスグリコシラーゼ遺伝子とトランスペプチダーゼ遺伝子の融合による通常のPBP遺伝子の形成, (2)誘導性ペニシリナーゼ遺伝子とPBP遺伝子の融合による誘導性PBP遺伝子の形成, を含む過程を経て生成したと推定した.
|