研究概要 |
遺伝子の発現調節は基本的には調節因子とDNA上の調節領域との相互作用に基づくと思われる。このような観点から、DNA上の調節シグナルに関しては、多数の構造遺伝子の上流に特異的塩基配列部位の存在など、多くの知見が蓄積されつつある。しかし、もう一方の主役である調節因子に関しては、2,3の例を除いてほとんど不明であった。卵黄蛋白質であるリポビテリンとフォスビチンの前駆体蛋白質であるヴィテロゲニンは、産卵中の雌鶏肝臓でエストロゲンの制御下で合成される。私共が開発した微量クロマチン蛋白質の系統的な分離精製法を用いて、このヴィテロゲニン遺伝子の発現調節因子の候補である非ヒストンクロマチン蛋白質の分離精製を試みた。産卵中の雌鶏肝臓の単離核を界面活性剤処理し、庶糖密度勾配遠心でクロマチン画分を得た。高濃度の食塩,尿素で処理し蛋白質をDNAから解離させ、ヒドロキシアパタイトカラムで両者を分別した。混入している非クロマチン蛋白質をDNAセルロースカラムで除去した後、高速液体クロマトグラフィーで各成分に分画した。ヴィテロゲニン遺伝子を含んだ染色体DNA断片と選択的に結合することをメルクマールにして、分子量約10000の非ヒストンクロマチン蛋白質を単一レベルまで精製できた。この蛋白質は産卵中の雌鶏の個体では、肝臓にのみ存在し、輸卵管や腎臓には存在しなかった。さらに、雄ひよこ肝臓には存在せず、エストロゲン投与により、ヴィテロゲニンを合成するようになった雄ひよこ肝臓で、ヴィテロゲニン合成の誘導と並行して、この蛋白質も出現した。このように、この蛋白質はヴィテロゲニン遺伝子の発現調節因子の最も有力な候補であり、Vitellogenin Selector(VS蛋白質)と名付けた。この極微量のVS蛋白質のN末端から20数個のアミノ酸配列を決定することができた。
|