研究概要 |
水俣の照葉樹林を対象とした温帯域森林生態系モデルを作った. このモデルはすでに開発されている熱帯多雨林モデルを拡張したものである. すなわち, 熱帯多雨林では, 気温や光強度の季節変化を年中一定のものとして, 1年をサイクルタイムとして計算を行なったが, 温帯を対象とするには気温や光強度の季節変化を無視する訳にはいかない. さらには, これらの環境要因の季節変化にともなって, 個葉の光合成・呼吸活性などの生理要因も季節変化するので, これらの季節変化特性も組み入れた. 水俣の照葉樹林に関しては, すでにIBPの研究の一環として, 総合的な森林生態系研究が多くの生態学者が参加して行なわれ, その成果を集大成した報告書(JIBP Synthesis vol.18, 1978)が印刷されている. そこで, 今回のモデルにははこの報告書にある多くの実測データを最大限に取り込んだ. まず, 今回のモデルのサイクルタイムを1ケ月とした. そこで, 毎月の気温と日積算日射量の実測データを黒岩(1966)の理論式に入力して, 剰余生産力を求めた. 茎や根の呼吸速度は毎月の気温の関数として計算した. リターフォールに関しては実測値を参照して, 葉については5月に, 茎については10月に極大になるように, 配分した. 植物体各部分の月別成長もリターフォールに似た取り扱いとした. このようにして決めたモデルを走らせ, 100年の森林動態をシミュレートした. 今回の温帯モデルも前回の熱帯多雨林モデルと同様な現存量と各種炭素フラックスの経年変化を示したが, 定常状態に達する時間はかなり長くなった. このようにして得られた照葉樹林の各種現存量や炭素フラックスの推定値は, 実測値とよくあった. 以上の成果をまとめて, 報告書を印刷した.
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