研究概要 |
2年間の本研究期間において, 細胞周期のS期に特異的に発現するヒストン遺伝子の転写調節に関わるシス領域及びトランス転写因子の探索と同定をコムギヒストンH3, H4遺伝子を用いて行った. 以下, その研究成果の概要を記す. 転写発現系として, 目的の遺伝子をアグロバクテリウムのTiプラスミドを介してヒマワリ胚軸細胞へ導入し発現させる系を用いた. 導入遺伝子の転写効率はS1法により調べた. 5′欠損変異体を用いた実験から, 転写活性の上昇に働くシスエレメントが-668と-191の間に存在することが示唆された. すでに-150付近に存在するオクタマー配列に加えて, 今回新たにヘキサマー配列(ACGTCA)が見つかった. このヘキサマー配列がコムギヒストン遺伝子の転写調節に重要な役割を荷っていることが推定された. この配列に特異的に結合する核タンパク因子(HBP-1)の存在がGel retardation法, methylation interference法, 及びDNaseI footprint法により確認された. このタンパク因子はP-セルロースカラム法で部分精製され, その2, 3の性質が調べられた. この因子は燐酸化によってDNAとの結合性が高まること, またヘキサマー配列を中心に約20bpの範囲をカバーしていることが明らかとなった. このタンパク因子は休眠種子胚にほとんど見られずに発芽胚中に多量に存在した. さらに, アフィディコリン処理によって人為的にDNA合成を同調化した場合, HBP-1はS期細胞集団に多く含まれていた. このヘキサマー配列はすで報告されているすべての植物ヒストン遺伝子だけではなく, 多くの動物ヒストン遺伝子にも存在していることから, この配列とこれに結合するタンパク因子はヒストン遺伝子のS期特異的発現に関わるシス及びトランスエレメントにそれぞれ対応するものであろうことが推定された. 今後はこの点に関してさらに詳細な研究が必要とされるであろう.
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