研究概要 |
一般に細胞の分化様式が細胞間相互作用の影響を著しく受けることは広く知られているが, その機構につしては全く明らかにされていない. 細胞生粘菌は単純な発生系をもつ上, 細胞集合体の形成に依存して分化が進行するため, この問題を扱うのに好個の材料と考えられる. 本研究においてはこの生物を用い, 単離状態に保った細胞を予定胞子細胞へ分化させる条件を検討することにより, 細胞分化における細胞間相互作用の実体を解明することを試みた. その結果, 次のことが明らかにされた. (1)増殖期の細胞や, 飢餓によって発生過程に入らせた後5時間(t_5)の細胞は, 低い細胞密度で遊離状態に保ったまま培養すると, 予定胞子細胞への分化は起らないが, 高い細胞密度で10時間(t_<10>)培養を行った細胞はその後単離状態にしても分化する. (この時cAMPとBSAを必要とする. )このことから, t_5-t_<10>の期間における細胞間相互作用が単独での分化能力獲得に必須と考えられる. (2)t_<11>細胞を得た培養上清中には, t5細胞に単独でも分化しうる能力を与える物質が存在する. この物質は熱感受性, プロナーゼ耐性, 水溶性であり, 分子量1000以上, および以下の複数より成る. t_5以降の細胞に数時間作用することによって効果を発揮する. (3)t_<11>以後, 単独での分化能力は減少するが, 分化後期の細胞より分泌される耐熱性, 脂溶性の物質によって減少が回復する. この物質は高速液体クロマトグラフィーによって, 分子量300程度の異なる働きを持つ2種類の物質に分離される. 以上の事実から, 粘菌細胞の分化は細胞より分泌される複数の物質が異なる3段階で働くことにより進行することが明らかになった.
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