研究概要 |
一般の被子植物では, 最初にできる主根は外生的に発生する. 胚の最外層である原表皮が並層分裂をして根冠をつくるため, 主根の成長によって他の組織が破壊されることは無い. これに対する顕著な例外は, イネ科の胚が最初に作る根である. この根原基は周囲の組織を溶解して体内に空洞を作り, そのさらに外側は根鞘として根を包むようになる. ジュズダマ属(CoiX)では胚発生中に4個の根原基が次々と形成され, まわりに共通の空洞を作り, 共通の根鞘で囲まれるようになる. 4個の根はいずれも内生的で, その構造, 発生に基本的な違いは無い. ツユクサ科の胚では, 主根の根冠は原表皮の並層分裂によって作られる. しかしその後, 根冠は奇妙な発達をする. 発芽直後に根冠内部の細胞が溶解して空洞ができ始め, これが拡大することで根冠は外層と内層とに分断される. 内層だけが根端に貼り付き, 本来の根冠としての形を保つ. 外層は伸長してくる根の本体によって突き破られ, 胚軸の基部をとりまく傘形の付属物となって残る. このような根の発生様式は, 一般の被子植物の外生的主根と, イネ科の内生的な最初の根との間の移行形であると考えられる. ラン科のサギソウ属, ツレサギソウ属などの胚を無菌栄養培地を用いて発芽, 育成し, 幼植物の発達と組織発生を観察した. 特に興味深いのは塊根である. 塊根原基はその基部に主軸の茎項を包み込んで発達し, 後に茎の組織を溶かして穴を開け, 茎頂と共に体外に出る. これらの発表に用いる解剖図をコンピュータグラフィックスによって作製する計画を立て, 大いに努力した. しかしソフトウェアがまだ完成せず, すべて従来どおりの方法で作図したものを用いた. 胚に準備は充分にととのっているので, 来年度中にはこの方面の発表も追加する予定である.
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