研究概要 |
細胞接着分子E型, N型およびP型カドヘリンのcDNAの分離を基礎として, 以下のような成果を得た. (1)3種類のカドヘリン分子の間で, アミノ酸配列上50%前後のホモロジーが見つかり, これらが共通の祖先をもつ分子群であることが示唆された. これは, 特異的細胞接着の分子的背景を研究する上できわめて重要な発見である. (2)カドヘリンcDNAを細胞に導入し, 発現させることを試みた. 各タイプのカドヘリンの全長cDNAをSV40またはβ-アクチンのプロモーターにつなぎ, これをネオ耐性遺伝子と共にカドヘリン活性をほとんどもたないL細胞に, リン酸カルシウム法より導入した. G418耐性細胞をクローニングし, 各クローンについてカドヘリンを発現しているかどうか蛍光抗体法によって検定するとともに, それぞれのクローンの細胞集合活性を測定した. その結果, L細胞は, 導入cDNAよりカドヘリン分子を合成し, その合成量に応じてカルシウム依存集合活性を獲得することが明らかになった. また, カドヘリン活性を獲得したL細胞は, そのコロニーの形態が変化した. L細胞は相互の付着性が弱く, 一般にばらばらな状態で増殖する. しかし, カドヘリンを発現することにより, 細胞は相互に付着し一見上皮様の形態をもつコロチーを形成するようになった. (3)E型およびP型カドヘリンのcDNAをそれぞれ導入したL細胞を用いて, 細胞選別におけるカドヘリンの役割を検定した. これらの細胞の一方を蛍光標識した後, 混合した. その結果, それぞれの細胞は独立に集合し, カドヘリンが細胞の特異的接着に関与することが直接証明できた. 今後は, 胚末分化幹細胞などにカドヘリン分子cDNAを導入し, 細胞分化過程に及ぼす影響をみる予定である.
|