研究概要 |
大腸菌のグルタチオン合成酵素(GSH-II)は, ATP存在下でγ-グルタミルシスティンとグリシンよりグルタチオン(GSH)を合成する酵素である. 本酵素の構造と触媒機能の関連を明らかにするため, (イ)他の酵素のアミノ酸配列との相同性を利用した三次構造の予測, および, (ロ)位置特異的変異による変異酵素の機能解析, を行なった. その結果, GSH-IIのアミノ酸配列は, ジヒドロ葉酸還元酵素のそれと高い相同性を示し, この相同領域は両酵素の機能と密接な関係にあることを明らかにした. また, この相同領域の両酵素間での機能的互換性についても検討した. GSH-IIは, 4コの同一サブユニットより成る分子量16万の酵素であり, サブユニット当り4コのシスティンを含む. そこで, 4コのシスティン残基のコドンをアラニンのコドンに変換した変異遺伝子を作製し, GSH-IIの活性とシスティン残基との関係を検討した. その結果, 4コのシスティン残基はGSH-IIの活性発現に必須ではないが, 酵素活性の向上に何らかの寄与をしていることを明らかにした. GSH-IIの構造と機能の関係を更に解明するため, GSH-IIの単結晶について解析を進めている. GSHの合成に関与するもう一つの酵素γ-グルタミルシスティン合成酵素(GSH-I)は, ATP存在下でグルタミン酸とシスティンを縮合させγ-グルタミルシスティンを合成する. GSH-I遺伝子の翻訳開始コドンはTTGであり, 一般的なATGではない. そこで, 位置特異的変異によりTTGをATGに変換した. その結果, GSH-Iの翻訳効率は約50%増大し, 医薬・試薬として重要なGSHの生産性を上げることができた. 現在, GSH-Iについても, その構造と機能の関係を追究している.
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