研究概要 |
種々の動物のヘモグロビン(Hb)の酸素結合機能を, 異なる実験条件下で測定・解析し, 互いに比較することによって, 各Hbに固有の, また逆に, 全Hbに共通の機能発現の機序を見い出し, 究極的には, 成人Hbにおける構造機能連関の解明に役立つ知見を得る目的で, 以下の研究を行なった. 1.成人Hbのd89His残基がBohr効果に寄与しているという説があるが, 根拠は1種の実験結果のみである. そこで, この説を検証するため, そのHis残基がTyrによって置換されているイヌのHbのBohr効果を精密に測定したところ, その説を積極的に支持するデータは得られなかった. 2.両棲類有尾目の4種のサンショウウオ(ハコネサンシウウオ, 中国産オオサンショウウオ, 日本産オオサンショウウオ, アメリカオオサンショウウオ)の赤血球およびHb溶液の酸素平衡曲線を, 種々の実験条件下で測定し, それら同士で, また, 成人Hbの曲線と比較した. その結果, 赤血球においても, Hb溶液においても, サンショウウオHbの酸素親和性はヒトHbのそれに比べて低く, Bohr効果は皆無もしくは非常に小さかった. また, サンショウウオHbは, Cl-, Ca2+, Co2, ATP, IHP, 無機リン酸塩によるヘテロトロピック効果も, もっていなかった. 4種のサンショウウオHbの内, ハコネサンショウウオHbのみが, 他のHbに比べてやや異なる性質を示した. 3.無尾目アフリカツメガエルの成体のHbが, 硬骨魚類のHbと同様に, Root効果を示すかどうかについて, 研究者達の意見が分かれているので, そのカエルのHb酸素平衡曲線を, 広範囲のpH条件下において測定して, Bohr効果の強さを調べた. その結果, 酸性領域でHill係数が小さくなったが, Hbの自動酸化が予想外に速いため, Root効果の存否に関する確固たる結論は得られなかった.
|