研究概要 |
赤血球の流れのなかでの挙動は血液粘度に影響を与え, また赤血球の毛細血管通過の可否も左右するため, 循環血流動態を決める因子として重要である. 本研究は生理的条件に近い拍動流中での赤血球の力学的挙動について知見を得るために行われたものである. 本研究の実験内容は次の通りである. (1)赤血球の希釈サスペンションを用いて, 正弦波状に変動するズリ応力下での赤血球変形の応答性について検討した. (2)コンピューターで流量を制御する拍動流システムを作製し, 拍動流中での赤血球変形を観察した. (3)細管中の拍動流の圧-流量関係から圧力波伝播に及ぼす赤血球変形態の影響を調べた. 〔研究結果と考察〕(1)変動するズリ応力下で, 希釈サスペンション中の赤血球の変形は変動周波数が2Hz以上ではズリ応力の変化に追随できなかった. この赤血球変形の遅延は, 正弦波状に変化するズリ応力の上昇過程で現れた. また, 赤血球の内部粘度増加, 膜タンパク重合化, 赤血球内Ca量の増加または減少, によって変形の周波数追随性が低下することが明らかになった. (2)拍動流システムを用い, 高ヘマトクリット中の赤血球変形を観察した結果, ヘマトクリットの増加で赤血球変形が起こり易くなり, また正弦波状に変化するズリ応力の下降過程で, 変形した赤血球の円盤形への復元が遅延した. この結果(2)は, 希釈サスペンション中の赤血球変形の結果(1)とは逆であったが, これは赤血球間の衝突が原因と考えられる. (3)剛体管中の圧力波の伝播効率は, 完全硬化赤血球サスペンションを用いたとき低下したが, 膜タンパクを重合化させた赤血球サスペンションでは影響がなかった. 一方, 赤血球サスペンションの粘度は完全硬化赤血球では上昇したがタンパク重合化赤血球では変化がなかった. 即ち, 圧力波伝播には粘度が重要であり, 変形能の影響は少ないことがわかった.
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