研究概要 |
筋収縮は細胞膜の興奮につづいておこる細胞内カルシウムイオン増加により誘起される. これまでカルシウム指示薬を用いてカルシウム動態が研究されてきた. しかし, 細胞内のカルシウムイオン濃度の増加は細胞内で均一におこらない可能性がある. この点を明らかにするには細胞内カルシウムイオンの動きを経時的に画像としてとらえることが必要となる. そこで, 顕微鏡に高感度ビデオカメラを取り付け, カルシウムイオン指示薬を注入した筋に刺激を与え, この時の細胞内カルシウムイオン濃度変化をビデオ装置を用いて記録し, かつ画像処理技術を用いて解析することを試みた. カルシウムイオン指示薬としては発光タンパク, エクオリンを用い, 光電子増倍管による電気信号と同時にエクオリンによる発光像を記録した. 1.骨格筋の単一筋線維に単収縮を誘起させた時の発光像は単収縮ごとに異なる. しかし, 画像を加算するとエクオリン注入部の発光強度に有意な差は認められなかった. 2.同様に強縮(40HZ)時の画像にも発光強度の差はみられなかった. 筋節長を2.4μmから3.6μmに伸長した状態で強縮を誘起させた時にも, エクオリン注入部に発光強度の差は認められなかった. 3.カフェインは筋小胞体に直接作用し, カルシウムイオンを遊離させるが, カフェインを作用させると発光は筋線維周囲から始まり経時的に中心部に進行し, 最終的にはエクオリン注入部全体に発光が広がった. 4.以上より, 生理的な収縮では顕微鏡の空間分解能とビデオの時間的および空間的分解能内でカルシウムイオンの濃度勾配は検出できなかった. カフェインのように拡散で筋線維内に浸透していきカルシウム遊離をおこすものはカルシウムイオン濃度を均一に増加させないことが明らかになった. 今後更に, カルシウムイオン濃度勾配が生じる種々の条件とその意義を明らかにすることが必要と思われる.
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