研究概要 |
脊髄運動ニューロンは支配筋の筋紡錐から由来するIa感覚線維から直接興奮性入力を受け, このシナプスの効率は抹消の筋神経刺激によって発生する運動ニューロンのシナプス電位(EPSP)を細胞内電極によって記録して測定し得る. 末梢の筋神経を切断すると, その筋神経の刺激によって誘起する運動ニューロンのEPSPは切断後数日の期間には亢進を示すが, 術後1-2週間以上経過すると減弱する. この潜時の異なる2つの相反する現象がどのような機構に由来するかをラットを用して検討した. 神経を切断する代りに, 末梢神経の伝導をテトロドトキシンによって数日間ブロックすると, 運動ニューロンのEPSPは有意に亢進した. このシナプス効率の増強は末梢神経の2日間のブロックで既に最大レベルまで発現した. したがって, 末梢神経切断後早期に見られる中枢シナプス伝達の亢進は, 切断による中枢への感覚性入力カインパルスの消失の基ずく中枢シナプスの不使用性亢進の結果と結論された. 末梢神経切断後に長い潜時をもって出現する中枢シナプスの効率の減弱は切断神経の再生を阻止する限り時間と共にさらに著明となったが, 末梢の再支配に伴って回復した. したがって, 末梢神経と標的組織(筋肉)との結合に依存する因子の介在が示唆された. 感覚神経の正常機能は末梢標的組織に由来する神経成長因子によって維持されることが知られているので神経成長因子(NGF)の媒介の可能性を検討した. 新生ラットの筋神経を挫滅すると, その筋神経の刺激による運動ニューロンのEPSPは一ヶ月後には正常値の約10%に低下するが, この一ヶ月の間連日NGFを投与すると, 挫滅神経刺激で誘起するEPSPは約4倍に増大し, これは挫滅によって細胞死を示した感覚神経繊維の数を考慮に入れると, シナプス効率として正常レベルに回復していることが明らかとなった. したがって, 栄養因子欠如による減弱と結論された.
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