研究概要 |
中枢神経系の働きは, これを構築する個々のニューロンの電気的かつ化学的膜特性によって決定される. しかし発達した神経回路網に組込まれている単一ニューロンには隣接する細胞群からの神経回路を経由しての干渉や電気的結合等の影響があり, また周囲のニューロンやグリア細胞による伝達物質の取込みもあり, 目的のニューロンそのものの活動に関する信頼し得るデーターを得ることは困難であった. 本報告では, (1)若年および成熟哺乳動物(ラット, モルモットやネコ)の特にラットのCNS各部位より, 酵素と機械的処理にて正常な形態を維持し, かつ生理機能を有する脳細胞を単離する新手法と, (2)単離された各種脳細胞の膜電位依存性イオンチャンネル電流や化学受容器を介するイオン電流について検討した. 結果はラットCNS細胞(海馬錐体細胞)におけるNaチャンネルのイオン透過の選択性は, Li>Na>hydrazine>formamidine>guanidine>methylguanidine>monomethylamineであり, このCNS細胞でみられたイオン選択性の傾向は末梢性組織のそれと類似していた. そなわち, CNSと末梢組織のNaチャンネルのイオン選択性の特徴はほとんど同じであるといえる. また単離された海馬錐体細胞は各種の興奮性アミノ酸に応答しこれらはクモ毒(JSTX)によって特異的に阻害された. NMDAのグリシンによる増強も著明にみられた. 加えて脳の各部位の化学物質に対する応答を検討し, 細胞内灌流下に単一CNSニューロンのイオン電流を制御しながら, 膜電位依存性イオン電流, 化学物質で賦活されるイオン電流, 細胞膜内セカンドメッセンジャー系に関する研究ができることを証明した.
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