研究概要 |
本研究では生体ホメオスタシスの定量的表示として血中・臓器内で一定範囲に維持される気質・代謝産物定常濃度を扱う. この物質濃度維持機構を個別素過程や調節の集積や〓境遺伝子指令の必然とする事は生体全体系を考える場合必ずしも妥当ではなく尨大な多因子相互作用を帰納する立場に並行して, 系独自の文法を更に知る実験的アプローチが必須で, このため我々は出来るだけ生体機能素子の性質を変えず, この定常濃度のみを特定の成分に特異的な方法で修飾しそれに対する生体全体系の代謝/生理応答を, 特に過渡特性に留意し調べる事にした. 対象として必須アミノ酸を二つ含みかつ神経伝達物質前駆体である芳香族必須アミノ酸を選び, 過去頻用されたが応答性の低い「負荷」と対照的な, 「除去」の擾乱を, それぞれに選択的な分解酵素の投与で果たした. フェニルアラニン/チロシンに酵素PALによりかけられた「負」の擾乱はすぐ脳の此等アミノ酸の特異的減少をもたらしたがアミノ酸パターン(他の), カテコールアミノ代謝に影響は少なく, 此等の定常濃度が独立調節でかつ全体系の調節のプローブとして作働しない事が判明した. 一方, トリプトファン血中定常濃度の生体全体系での意義は極めて高いもので, トリプトファン側鎖酸化酵素(TSOI)I型生体投与による血中トリプトファン除去に脳は特に鋭く応答し脳内トリプトファン濃度は血中変化に殆ど即時に追従する事, それより生合成される神経伝達物質セロトニンも僅かの遅れで急激に減少し, これはセロトニンニューロン活性の指標, 5-HIAAも同様で, 共に数時間以降正常の1/10程度となり, 事実上セロトニン代謝及びニューロン活性は凍結に到る事が明らかとなった. ここに血中で最も少ないものの一つであるアミノ酸定常濃度が脳の活動に密接な関係を持つ事, そして更に, この経路を用い懸案の脳のセロトニンの生理的意義の解明そして随伴する意識交替(睡眠/覚醒)問題の道が生じた.
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