研究概要 |
我々はこれまでの虚血肝細胞の障害壊死の生化学的研究で次のことを明らかにしてきた. (1)虚血による細胞障害は無酸素下での細胞内ATPレベルの低下に起因するものと, 血流再開後に生成するO_2ラジカルによる過酸化反応によるものとに大別される. (2)ATPレベルの低下は, blebの形成や胆汁分泌の停止など細胞骨格系の障害とミトコンドリアの酸化的燐酸化能の消失という2つの細胞障害を惹起する. 本研究ではラット肝及び心筋細胞を用いてこれらの生化学的過程を解析し, ATP低下による障害機構を特に細胞内Ca^<2+>の変動と関連させて追跡し次の結果を得た. (1)ミトコンドリア内のCa^<2+>を通常CaATP^<2->複合体として存在し, 無酸素下でATPが低下するとCa^<2+>が遊離して, その結果ホスホリパーゼA_2の活性化と内膜のH^+透過性が亢進する. (2)胆汁分泌速度は細胞内ATPレベルを反映するが, 長期保存肝では再灌流によりATPレベルや糖新生能, 尿素生成等が回復しても胆汁分泌は戻らなかった. また保存液中にはCa^<2+>を含まない方が胆汁分泌の回復は良好であった. この結果は細胞骨格系の障害はエネルギー産生系とは別に, 細胞質内Ca^<2+>の変動等に関連していることを示唆するものである. (3)無酸素下においた単離肝細胞の蛋白をSDS-PAGEで分析してところ, ミオシンが減少し一部は不溶性分画へと移行していた. これはアクトミオシンの形成や, 活性化されたカルパイン等により分離された可能性があり現在検討中である. (4)潅流心を用いて虚血心筋細胞内のATPを追跡したところ, ATPにはNMRで検出される遊離型と, 検出されないミトコンドリア内及び結合型ATPが存在することが判明した. 虚血時に減少していくのは遊離型ATPであり, 再潅流後の心機能維持のためには遊離型ATPが残存していることが不可欠であった.
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