研究概要 |
前立腺癌の発生, 進展に関与する因子を研究するために, 前立腺ラテント癌および臨床癌の各組織学的分化度別における癌遺伝子産物ras p21の発現の免疫組織化学的検討と培検前立腺組織中のホルモン濃度の定量を行なった. ras p21の免疫組織化学的検討は, ホルマリン固定, パラフィン包埋材料を用い, avidinbiotin complex method (ABC)で行なった. ラテン癌におけるras p21の陽性率は37%であり, 組織学的分化度別では高分化型30%, 中・低分化型40%が陽性であった. 臨床癌では70%が陽性であり, 分化度別では, 高分化型60%, 中分化型70%, 低分化型73%が陽性であった. 陽性例では, 腫瘍細胞の細胞質がびまん性に染色されていた. 正常腺細胞や平滑筋細胞などの間質細胞も一部で染色されていたが, その染色性は癌細胞より弱かった. 本研究では, 分化度の低い癌にras p21の陽性率がやや高いが, 統計的には差異がなかった. Violaらの報告と比較するとその陽性率はやや低かった. この差は, 使用した抗ras p21抗体の認識する抗原決定基の相違によると考えられる. さらに, 癌床癌におけるras p21の陽性率はラテント癌より高く, ラテント癌の顕性化にras遺伝子の関与している可能性が示唆された. 前立腺組織中のホルモン定量は, 113例の50歳以上の男子培検例について, testosterone(Z), estradiol(E2)およびprolactin(PRL)濃度をラジオイムノアツセイ法で測定した. 113例中37例(32.7%)にラテント癌が認められ, そのうち12例が高分化型, 25例が中・低分化型であった. 組織PRL濃度は低分化型癌例で, 非癌例や高分化型型癌例より高かった. T, E2濃度は3群間で有意差を認めなかった. 前立腺癌の発生や進展にはandrogenが重要な役割を果たしていることは間違いないが, 本研究では, 前立腺癌の進展にras遺伝子もPRLも関与している可能性が示唆された.
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