研究概要 |
中枢神経に重篤な感染をおこす単純ヘルペスウイルス(HSV), 狂犬病ウイルスなどは逆行性軸索流によって神経節に達しそこで増殖したのち, 更に偽双局神経突起の中枢枝をへて中枢神経に達する. 本研究はこのようなウイルスの神経節での増殖動態を明らかにし, ウイルスの侵入路となった末梢神経の逆行性軸索流を利用して薬物を選択的に感染細胞に送り込み中枢神経での感染成立を阻止しようとするものである. この目的で新たにラット三又神経節を用いる実験系を開発しHSV:狂犬病ウイルスについて実験的研究を行った. HSV-F株を接種後4日目までは神経節に母神経細胞の分布に一致してウイルス抗原が証明されたが, その後はウイルス抗原は検出出来なかった. しかし, 接種後15-386日目に無症状でウイルス抗原が検出されない動物49匹中42匹(85.7%)の三又神経節から組織培養によってウイルスが分離された. またHSV-cDNAとのin SiTu ハイブリダイゼイションでウイルスゲノムをウイルス接種後502日でも証明することが出来た. このようなHSV潜伏感染にたいしてウイルス接種に用いたと同じ末梢神経に細胞毒のアドリアマイシンの注入を一回行うことによって, ウイルスの分離率が対照31/37に対し3/37に減少することを証明した. 狂犬病についても同様な方法で三又神経節に急性感染が成立すること, 中枢神経でのウイルス抗原の出現が三又神経節でのウイルス抗原の発現より2-3日遅れることから, 末梢神経にウイルスが浸入したのちでも早期に治療を行う事によって脳炎の発症を阻止しうる可能性があることを示した.
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