研究概要 |
これまでに1型ポリオウィルスの神経毒性に影響を与えるゲノム領域を同定するために強毒Mahoney株と弱毒Sabin1株間で種々の組換え体ウィルスを作製し, それらの神経毒性をカニクイザルを使用して検討してきた. その結果神経毒素性に影響を与えるゲノム領域は複数存在すること, ゲノム5′noncoding領域, とくに塩基番号480の塩基がアデニン(強毒Mahoneyの塩基)であることが神経毒性発現に重要に関与していることが明らかとなった. ところがこの塩基を弱毒Sabit1株の塩基であるグアニンに置換しても周囲の塩基配列がMahoney型であるときには期待した弱毒性発現が見られないことが判明した. この理由として(1)弱毒性発現には5′noncoding領域が形成する高次構造が機能しており, 塩基番号480周辺の単なる一次構造で制御されるものではない. (2)塩基番号480のグアニンが, 個体中でのウィルス複製の間にグアニンにもどってしまう可能性がある. の2点が考えられた. そこで(2)の可能性を検討した. まず弱毒性が期待された組換え体ウィルス(塩基番号480がグアニン)をカニクイザルの中枢神経系に接種し, 7日後に臨床的に病変を呈しているサルの中枢神経系からウィルスを回収し, これらウィルス(18株)のゲノム5′noncoding領域の塩基配列を調べた. その結果5′noncoding領域の塩基配列は塩基番号480も含め変化していないことが明らかとなり(2)の可能性は否定された. 以上の結果は, 最初に接種したウィルスそのものが期待したより強い神経毒性を持っていたことを示唆するものであり(1)の可能性を強く示唆した. このように弱毒性発現のメカニズムは複雑であり, 塩基番号480が影響を及ぼす5′noncoding領域の機能構造を解明する必要が生じた. 現在はコンピューターを使用した高次構造解析を行っているところである.
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