研究概要 |
リンパ球分化誘導の機構を蛋白分子・遺伝子レベルで解析するための新しいシステムを開発するために, Abelsonマウス白血病ウイルス(A-MuLV)より温度感受性変異ウイルス(ts変異株)の単離を試み, これに世界で初めて成功した. このウイルスに感染し形質転換された幼若Bリンフォーマは, 低温度の培養条件では幼若細胞の分化段階に固定されたまま自立的な増殖を続けるが, 高温度の培養条件では細胞表面免疫グロブリン(sIg)陽性の成熟細胞へ, 更にマイトーゲンの刺激により抗体分泌細胞へと分化する. この過程で, 細胞の腫瘍化に大きな役割をはたすA-NuLV由来蛋白p120のチロシンキナーゼ活性が著明に減少することから, 幼若リンフォーマにあらかじめプログラムされていた分化誘導関連機構がウイルス感染とそれに続く形質転換の過程でブロックされること, またこのブロックがp120のキナーゼ活性の低下に伴って解除されることが示唆された. このts変異株ウイルスを用い前B細胞, 前々B細胞クローンや, 幼若T細胞株が確立された. 得られた幼若Bリンフォーマクローンに分化を導入しIg遺伝子発現の過程を同一クローン内で経時的に観察した結果, 少なくとも我々の得たクローン内では, Ig再構成の際に用いられるVH遺伝子が再構成前の分化段階ですでに決定されていること, 再構成後産生されたμ鎖が未知の蛋白と共に細胞表面に発現されることなどの新しい知見を得た. 一方我々は胸腺組織培養法を用いて, 胎生期胸腺に存在する種々の幼若リンパ球の株化に成功した. これらの細胞株のあるものは前B細胞の分化段階に属していることが明らかとなり, また種々の細胞移入の実験から, 胎生期胸腺には高頻度でB前駆細胞が存在することを初めて明らかにした. またこのシステムを用いて今まで報告のない. Thy-1陽性, AA4陽性, IL-2レセプター陽性の表現型をもつ幼若T細胞の株化にも成功した.
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