研究概要 |
我々は人悪性黒色腫細胞株とヌードマウスに移植すると宿主マウスに著明な体重減少と悪液質に類似した病態をきたすことを観察してきた. この病態は腫瘍から産生される生理活性物質によるという仮説のもとに種々の検討を重ねた. 腫瘍を移植されたヌードマウスの血中ブドウ糖は著しく低下し, 一方腫瘍中のグリコーゲン含量は増加していることから, この原因の一つとしてインスリン様活性の存在が推定された. この腫瘍を培養し, 培養上清中のインスリン様活性をin vitroにて測定すると, インスリン様活性の存在が認められ, この活性はインスリンやインスリン様成長因子-Iではないことが確認された. この活性物質は膜分画やゲルろ過から, 分子量3万付近を分子量500前後の少なくとも二種の物質群からなると判明した. 一方この腫瘍はEGF受容体を全く欠損していることから, 腫瘍がEGF類似物質を産生していることが示唆され, EGFレセプターアッセイにて高濃度のEGF様物質が存在し, その物理化学的性質は人EGFとは異なり, Transforming growth factor-αと同一のものであるこが判明した. この腫瘍からのTGF-αの産生はレチノイン酸などの分化誘導剤にて2産生が明らかに増大することを観察した. そこでこの細胞をレチノイン酸の存在下に大量培養し, TGF-αを培養上清より精製することが可能となった. 精製されたTGF-αを用いて抗体を作製し, マウスEGFや人EGFと交差しないモノクローナル抗体を得ることができた. この抗体を用いて, この腫瘍を移植されたヌードマウス尿中に確かにTGF-αが存在することを明らかにした. このことから, TGF-αの悪液質への関与が示唆された. またこの腫瘍の培養上清はTGF活性が強いことからTGF-βの存在も明らかであり, この腫瘍によりマウスに惹起される悪液質には, 三種以上の生理活性物質の関与していることが示唆された.
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