研究概要 |
急性心筋虚血と, それからの回復過程で生じる異常興奮と収縮を単純化して観察するため, 酵素処理により単離したモルモット単一心室筋細胞を用いた. 細胞呼吸阻害薬(CN^-)を添加し虚血を模した環境下にさらし, 次いで同阻害薬をwashoutする過程における電気興奮を微小電極法により観察すると同時に, テレビ画像処理法を用いた心筋細胞局所におけるサルコメア長変化の詳細な観察から得た細胞内Ca^<2+>動態を解析し, 異常興奮の発生機序に関する検討を行った. 1.CN^-による細胞内呼吸阻害時の膜電位と収縮動態の変化. 1Hz電気刺激下に5mMCN^-を添加すると活動電位持続時間(APD)が次第に短縮し, 30〜70分後には活動電位を生じなくなった. APDの短縮にほぼ並行して心筋細胞の収縮も低下した. CN^-添加時には, 膜電位振動や自発収縮は認められなかった. 以上の変化は, 細胞内ATPの枯渇によると考えられる. 2.細胞呼吸再開により誘発される膜電位振動. CN^-をwash outすると, wash out直後から数分間にわたり, 静止膜電位レベル(約-95mV)から生じる微小な脱分極が繰り返し観察された. この膜電位の脱分極は心筋細胞の局所的なサルコメアの短縮を伴っていた. 振幅5mV以下かつ持続時間500msec以上の脱分極時には, 細胞内の一カ所から波紋様に伝播する局所的なサルコメアの短縮(propagating contractile wave)が見られた. 振幅5mV以上あるいは持続時間500msec以下の脱分極時には, 細胞全体のサルコメアがより均一な短縮を示した. 膜電位の微小振動が見られる時点で1〜4Hzのトレーン刺激を加えると, 刺激停止後一過性に膜電位振動の振幅が増大するとともに, より同期したサルコメア短縮が生じた. 以上より一時的細胞呼吸阻害からの回復過程では, 細胞質Ca^<2+>濃度の不均一な上昇による膜電位振動が生じ, このCa^<2+>濃度の上昇が同期されることにより脱分極が増大し異常興奮を誘発することが明らかとなった.
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