研究概要 |
高血圧動物の血管平滑筋細胞の増殖・肥大・代謝面での異常が, 圧負荷の存在の有無に拘らず, 高血圧や動脈硬化の易発症性に関与しているか否かを高血圧自然発症ラット(SHR)とウィスターキョウトラット(WKY)の大動脈平滑筋培養細胞を用いて, 核酸, 蛋白, グリコサミノグリカン(GAG)合成を各種の刺激下に検討した. 1)SHR由来の細胞の核酸, 蛋白, GAG合成は, WKYより亢進していた. 2)圧負荷のシミュレーションとして培養細胞に遠心力を負荷すると, WKYでは核酸, 蛋白合成は抑制された. SHRでは, その抑制は軽度であった. GAG合成は, SHRで軽度の重力負荷により有意な増大がみられた. 3)培養細胞にノルアドレナリン(NA)を添加すると, 核酸合成は減少(β遮断薬の前処理で回復), 核酸合成は不変(α遮断薬前処置で抑制, β遮断薬前処置で増加), GAG合成は増大(β遮断薬前処理で回復)した. SHRの核酸, 蛋白合成は, WKYと同様の変化を示したが, GAG合成はα遮断薬前処理で増大した. 上記のβ受容体刺激の効果は, db-cAMP, テオフィリンの添加で確認された. 4)培養液に添加したバゾプレッシン, アンジオテンシンIIは, 濃度依存性にWKYの核酸合成を増大させたが, SHR由来の細胞には有意な変化を与えなかった. 一方インスリンは両者の核酸合成をいずれも増大させた. 5)SHR由来の細胞を培養した培養液は, WKYの核酸合成を濃度依存性に増大させた. 6)SHRの培養細胞内遊離カルシウムは, WKYより有意に高値を示した. 以上より, 高血圧の遺伝素因をもつSHRの血管平滑筋培養細胞は, 物理的, 化学的刺激による細胞増殖, 蛋白, GAG合成能がWKYより大であり, SHRの核酸合成亢進の機序として, SHRでは膜異常に伴う細胞内遊離カルシウム増大により, 細胞増殖のG0期からG1期への以降が速やかである可能性が示唆された.
|