研究概要 |
Digoxin-Like immunoreactive substance(DLIS)のナトリウム利尿作用について検討を行なった. DLISは, 健康な成熟新生児から得られた臍帯血をアセトンー塩酸にて抽出し, Sephadex G-25により分画することにより得られた. ゲルクロマトグラフィーの結果では, DLISは分子量1000前後であった. 1.0ng/mlのDLISを含む溶液を試料Aとし, 粗なdigoxin receptorであるrat brain synaptosomeにより試料Aより完全にDLISを吸着除去した溶液を試料Bとした. これら2つの試料をラット腎動脈に直接注入し, 尿中へのナトリウム排泄の増加の有無を検討した. その結果, 試料A注入時では, 尿中ナトリウム/クレアチニン比(U-Na/Cr)は徐々に増加し, 注入前値に比べて2〜3倍高値を示した(p<0.05). しかし, 試料B注入時では, 尿中U-Na/Cr比の増加は認められなかった. 両者のナトリウム利尿作用は, 統計学的にも有意の差を認めた(p<0.01, p<0.05). このようにDLISを含む抽出物のみにナトリウム利尿が観察された. 次に試料A中にナトリウム利尿に関与する他の物質が存在するか否か検討した. その結果, 試料A中のプロスタグランジンE2, F20, ドーパミン, 心房性ナトリウム利尿ペプチドは, いずれも生理学的な活性を示す濃度には達せず, 試料Aと試料Bとの間に大きな差はみられなかった. また, カリクレイン, オキシトシンは検出されなかった. 以上の結果より, 今回のラット腎動脈潅流実験による尿中のナトリウム排泄の増加はDLISの存在による可能性が高いと思われた. その作用機序は, DLISが腎尿細管基底膜に存在するNa+, K+-ATPaseを抑制し, ナトリウムの再吸収を抑制するため尿中へのナトリウム排泄が増加するのではないかと思われた. 今回の検討でDLISのナトリウム利尿作用は明らかにされたが, まだDLISの構造決定はなされていない. また, なぜ新生児期に高値を示すのか明らかではない. 私共は, 現在DLISの抽出精製ならびに産生部位の確認を検討中である.
|