研究概要 |
細胞ではピリミジンde novo生合成系に関与する酵素群の活性調節は同一の調節遺伝子によって行われるとされ, 事実, 培地の条件如何によって生合成系が一斉に亢進したり或いは逆に抑制されたりする現象が認められる. しかし高等動物の代謝系では複数の酵素活性が一斉に変動するような現象は稀であり, またそのような現象が見出されたとしても, そのことを説明するためのオペロンの存在自体も未だ証明されていない. しかし, 遺伝性オロット酸尿症では, これまでに診断し得た11症例すべてがピリミジン生合成系で隣接する2種の酵素(1)オロット酸ホスホリボシルトランスフェラーゼ(OPRT)と, (2)オロチジル酸脱炭酸酵素(ODC)の両者の活性欠損を示し, 逆に(3)アスパラギン酸トランスカルバミラーゼ(ATC), (4)ジヒドロオロターゼ(DHO)(5)ジヒドロオロット酸脱水素酵素(DHODH)の活性亢進をも示す. 上記の事柄を説明するためにはTatum等による一遺伝子一酵素説よりはオペロン説の方が妥当とも考えられる. ここにおいて我々はヒトのピリミジンde novo生合成系に関わる諸酵素の遺伝子座位が各々同一のオペロン上に存在するのではないかとの仮設を立てて遺伝子工学的手法を用いて検討を行った. その結果, 得られた知見をまとめてみると, (1)ヒト赤血球ODCはSDSポリアクリルアミド電気泳動によって分子量51,000の蛋白バンドを示し, この価はエールリッヒ腹水癌細胞から精製されたOPRTとODCの両活性を有する蛋白(UMP合成酵素)分子量とほぼ等しい. ヒトでも単一の蛋白の上に両活性が存在する可能性は大きいと思われる. (2)ヒト胎盤λgt111cDNAライブラリーから分離されたものは塩基レベルからもアミノ酸レベルからも相同性が高く, ODCのcDNAを完全に含んでいるとの結果を得た.
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