研究概要 |
遺伝子治療のための動物実験系モデルを開発することを目的とした. 導入する外来遺伝子として, その発現の検出が容易であるという理由で, HLA抗原DRまたはDQ遺伝子を用いた. 遺伝子導入法としてリン酸カルシウム法, リポゾーム法, レトロウイルスベクター法, 高電圧パルス法の各々について, in vitro培養系を用いて検討した. その結果, ヒトおよびマウス骨髄細胞に対しては高電圧パルス法(2kv/cm, 5回パルス)がin vitroでの遺伝子導入頻度7%と最も効率が良かった. この高電圧パルス法は操作が容易で一度に大量の細胞を処理できること, レトロウイルスベクター法のような発癌の危険が全くないことなどの優れた特性を持っているので, 遺伝子治療のための遺伝子導入法として最も有力と考えられた. そこで, この高電圧パルス法を用いてHLA抗原遺伝子を導入したマウス骨髄細胞を, X線照射したマウスに移植し, in vitroでの外来遺伝子の発現を検索した. 移植後3週目の末梢血についてFITC法およびDMAR法によりHLA抗原の発現の有無を検討したところ, 4匹中3匹の末梢血中に陽性細胞が明瞭に認められた. その頻度は期待されたより低く, 0.01〜0.02%であった. この発現頻度を高めるために, 現在, 遺伝子導入後の選択条件(neo遺伝子を同時に導入しているので, その際のG418の濃度等)の検討, 骨髄細胞中の造血幹細胞数を増加させるためのin vitroでの操作法(マウスへの5Fuの投与など)の開発, プロモーターとしてより高い能力を有するHSV-TKプロモーターへの改変などを計画している. 以上のような研究経過であるが, 今後基礎的な検討をさらに発展させ, 高電圧パルス法による遺伝子治療を実現させるよう, 研究を継続する予定である.
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