研究概要 |
本研究の目的は, 表皮細胞間接着(デスモソーム)の形成と開離の制御機構と, 細胞間接着障害に起因する水疱症や角化異常症の発生機序の解明である. 表皮細胞は低Ca^<2+>(0.07mM)培地ではデスモソームを形成しないでケラチン中間径線維(KIF)も核周囲に配置しているが, Ca^<2+>添加(1.87mM)によって5分内に細胞間接着とデスモソーム形成を開始し, 2時間内に完成する. この現象はHenningらの報告1982年以来知られているが, 培地Ca^<2+>濃度の上昇が細胞内にシグナルとして伝導される機序は不明である. そこで我々は, ヒト扁平上皮癌細胞を用いてこのCa^<2+>誘導細胞接着が細胞膜イノシトールリン脂質(PI)回転とCキナーゼ(CK)の活性化によって仲介されている可能性を検討した. その結果, Ca^<2+>添加30秒でPI代謝産物であるジアシルグリセロール(PG), ホスファチジン酸, イノシトールラリン酸の上昇が認められた. さらにDGによって活性化されるCKの活性上昇も15分後には確認された. これらは, 細胞外Ca^<2+>上昇がPI回転CK活性化系によって細胞内ヘシグナルとして伝達されることを示唆している(第12回日本研究皮膚科学会報告, J.Invest Dermatol.投稿中). 一方, CKを直接刺激するホルボルエステル(TPA)を低Ca^<2+>表皮細胞に添加したところ, 15分でCK活性化と細胞間接着が誘導された. しかし, 24時間ではCK活性のdown regulationによる失活と細胞間接着の減少が生じた. また, 正常Ca^<2+>培養表皮細胞培地にCK阻害剤であるH7を添加するとデスモゾームの数の著減がみられた. これらの結果は, CKが表皮細胞の細胞間接着の制御に関与していることを強く示唆している(Cancer Res.1988印刷中). 天疱瘡抗体の表皮細胞間接着形成(Ca^<2+>誘導)に与える効果(J.Invest.Dermatol89, 167〜171, 1987), 単純型表皮水疱症のKIFの形成と分布異常(J.Invest.Dermatol.投稿中)についても興味ある知見を得た. KIFの分子構造と細胞間接着制御についても研究する必要が生じた.
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