研究概要 |
本研究は, 急激な血圧上昇, 及び数年にわたる高血圧状態が心大血管形態に及ぼす影響について, 本態性高血圧症例を用いて検討した, 急性高血圧状態については, 自転車エルゴメータ負荷直前後の胸部単純X線像による心形態変化を, 心電図, 心筋シンチ像を参考に計測した, こに結果, 負荷により, 中等症高血圧例までは, 全心容積が縮小を, 重症例又は虚血性心疾患合併例では拡大傾向を示した. 次に, 市民健診13,000例中, 2年間以上経過を観察できた本態性高血圧症106例の胸部単純X線像, 心電図, 理学所見の経年変化について検討した. 本症を3年の経過で全心容積増大, 不変, 縮小の3群に別けると, 各群の心大血管形態, 心電図, 血圧変化の差を生じた. 即ち, 全心容積は, 正常値と比較して, 増大群では, 初年度平均50%増大が, 3年目80%増大となり, 逆に, 縮小群では, 80%増大から50%増大へと, 心拡大が改善した. 血圧値は全群で上昇したが, 縮小群で上昇率が低かった. 大動脈径は増大群で増加, 縮小群で減少傾向を示した. 縮小群の心電図変化は, 肥大所見からほぼ正常所見への移行例も見られた. このように, 長期の圧負荷により, 一部症例で虚血性心疾患を含む高血圧性心疾患の非代償期への進行が予想され, その心形態上の境界は, 全心容積80%拡大時点であった. それ以上の心拡大は, 肥大心筋の伸展不良により収縮力が低下し, 非代償性心拡張即ち高血圧性心不全に進行する. このような症例では, 一過性の急激な血圧上昇でも心拡大を生じ, 長期予後を負荷試験で再現可能であった. 一方, 大動脈拡張は, 血圧とほぼ平行状態にあり, 降圧により, 縮小することが判明した. 心電図も心筋肥大, 虚血所見をほぼ忠実に表現した. 以上, 代償期にある本態性高血圧症例の心形態, 検査所見の変化を検討して, 本症の長期予後の予測を可能にした.
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