研究概要 |
トリプトファンおよびその代謝産物の生体内代謝あるいは生体内動態についての新しい研究手段である負イオン化学イオン化質量分析法を利用する安定同位元素トレーサー法の開発, ならびにその応用に関する研究を行った. その結果, これまでに開発しているトリプトファン, トリプタミン, セロトニンに加えて, インドール酢酸, 5-ヒドロキシインドール酢酸, キヌレニン等の追跡が可能となった. また, 重水素標識トリプトファンをトレーサーとして利用する場合には, 上記の代謝産物への代謝を一度に追跡することが困難であったため, 新たにトリプトファン^<13>Cの標識化合物であるL-tryptophan-2,3-^<13>C_2を合成した. 応用に関しては, 尿中に排せつされるトリプタミン, セロトニンの代謝部位についての検討を行い, セロトニンは主として脳で, トリプタミンは肝臓をはじめとする末梢臓器で代謝されたものである可能性の高いことを見いだした. この結果は臨床診断学的には興味ある結果であると考えられる. またこの検討の中で, 従来セロトニンは血液脳関門を透過しないと言われていたが, これが間違いであることを確かめた. また, 少数ではあるが, 協力の得られた自閉症患児について検討を加えたところ, セロトニン代謝に異常のあることを見いだした. この点については, さらに症例数を重ね検討をする必要性があると考えられる. 本研究で開発した, 負イオン化学イオン化質量分析法を利用する高感度な安定同位元素トレーサー法は, 数少ない応用例ではあるが, トリプトファンの生体内代謝の検討には有効な手段であることが確かめられた. 脳還流などの特殊なサンプリング法の併用を考えれば, さらに有効な手段となるものと考えている.
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