研究概要 |
1939年Blalockが重症筋無力症(MG)の治療として胸腺摘出術を施行して以来, 本法は胸腺腫合併例や内科的治療法に抵抗する症例に施行されてきた. しかし乍ら手術療法の適応は定かな法則がある訳でなく, 症例によっては症状の寛解がみられるが, 改善の見られない事も稀でない. 我々は術後経過の良否が術前の患者の細胞性免疫能の活性化の有無と関連している事に気付き, この胸腺がmediateするリンパ球の活性化機序を解明する事が本症の手術適応判定や, 病態解明の一助になると考え, 以下の事実を見出した. 1)MG患者の胸腺抽出液に強い活性を持つリンパ球遊走因子が存在し, リンパ球の中でもT細胞を選択的に強く遊走させる. 2)T細胞のsubpopulationではhelper/inducer T cellに特異的遊走活性を有し, suppressor/cytotoxic T cellは遊走させない. 3)リンパ球遊走活性はMGを伴わない悪性胸腺腫の抽出液には認められなかったが, 正常胸腺抽出液には弱いながらも遊走活性が認められ, helper T cellとsuppressor T cellを同程度遊走させた. 4)MG胸腺抽出液をSephadex-G-100カラムクロマトグラフィーに展開すると分子量が160,000-100,000, 25,000-15,000と1350以下の分画に遊走活性のピークが存在する. 5)本因子は二硫化基をもつ糖蛋白で, 56°C30分の熱処理, 酸化(pH4), アルカリ化(pH10)で失活する. 6)本因子は胸腺実質細胞の抽出液や培養上清中には認めるが胸腺細胞抽出液や患者血清中には認められなかった. 七)本因子は既知のリンパ球遊走因子であるC5aやIL-1, IL-2とは異なる全く新しい因子であった. 以上の事より本因子が抗AchR抗体産生に必要なhelper T cellを強く胸腺に集積させ, 抗体産生を抑制するsuppressor T cellをほとんど遊走させない事は, MG患者にみられる免疫異常に本因子が重要な役割を演じている事が示唆される. 更に本因子の活性の強弱を測る事はその患者の術後経過の良否を予測する一助となるであろう.
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