研究概要 |
従来の安全性に重きをおいた肝癌の切除術式では, 根治性を犠牲にして来た. 私共は, Redox理論にもとづして, 術前, 術中, 術後を通じて統一的な治療対策を行うことにより, 肝癌手術の安全性と根治性を高め, その治療成績を向上するため本研究を行った. 1.治療中ケトン本比(acetoacetate/β-hydroxybutyrate比, BKBR)の測定キット法の開発と臨床応用. 肝ミトコンドリアのNAD^+/NADH比(Redox state)を血中で反映するBKBRの測定のキット化に成功した. これにより正確に頻回に, 経時的にRedox stateが把握可能となった. 2.肝生検によるミトコンドリアの病態の解析, 肝硬変の病態を形態学的にではなく, 機能的に解析すべく, 針生検で得た極く少量の肝組織よりミトコンドリアのチトクローム酸化酵素の活性測定が可能となった. 硬変肝の予備能の術前評価が可能となった. 3.Redox toberate test. 75gOGTT時, 血糖及びBKBRを経時的に測定し, 血糖値の上昇する面積とBKBRの変化する面積の比によりRedox stateのcapacityの術前評価を可能とした. この比が0.5以下の症例は術後の肝不全発症の危険群であることが判明した. 4.Redox stateの術モニターによるmetabolic stressの解析. 術中BKBRの低下が長時間継続する症例では, 術後の代謝不全が発症した. BKBRを低下せしめる因子(薬剤手術操作等)を除外し, 術後の肝不全を予防することが可能となった. 5.拡大肝切除のための体外循環の臨床応用. 術中のRedox stateの低下を防ぎかつ血流の安定を確保して安全な肝切除を以下うため, Bio-Pump利用による肝切除術式を確立した. 以上の研究成果を基盤として, 安全性と根治性を高めた肝癌の新しい切除術式の開発及び術前, 術中, 術後の論理的な代謝管理が可能になった.
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