研究概要 |
胸部大動脈手術時の大動脈遮断に伴う脊髄虚血による対麻痺発生防止のため, 脊髄誘発電位(ESP)を用いて, 脊髄虚血のモニターを行った. 実験的, 臨床的に検討し, 下記の結果を得た. (1)実験的検討 対照と方法: 成犬を用い, 第一腰椎近傍の硬膜外に刺激電極, 第三〜五胸椎間の椎開板に感電極を置いた. 5〜100回の刺激で得たESPを平均加算し波形を得た. 結果: 下行大動脈遮断によるESPの変化は3型に分類できた. I型は遮断後, 波型が消失, II型は変化なく, III型は, 一過性振幅低下後, 遮断中に振幅が回復したものである. I型は全例術後対麻痺を呈し, II型は全例麻痺の発生を認めなかった. III型は一部で痙症麻痺を認めた. I型では, 振幅が術前の20%に低下してから10分後に遮断を解除しても, 対麻痺発生は防止できなかった. 組織学的には, 対麻痺発生例では, 第8胸髄以下に灰白質を中心として梗塞像を認めた. II型のものでは変化は認めなかった. 脊髄虚血の防止手段として, 大動脈遮断中, 助間動脈の選択的潅流と, 大動脈内への血管拡張剤投与を試みた. 両者とも有効である可能性が示唆された. (2)臨床的検討 当科で胸部大動脈遮断を要する手術をした30例においてESPをモニターした. 23例はII型であった. 4例はESPの振幅の軽度低下を認めた. 3例はI型と考えられ, うち1例は一時的バイパスの再設置を, 2例は血行再建の完了を急いだ. 術後対麻痺の発生は認めなかった. 現在は, 一時的バイパス, 体外循環回路に組み込める側枝付きチューブを用意しており, 脊髄虚血が疑われる際には, 即, 助間動脈を選択的に潅流できるようにしている.
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