研究概要 |
肺癌検診は, 昭和62年までに, 52市町村に対して施行され, 延べ829079名が受診した. 一次検診は年1回の間接X線写真と, 高危険群に対する喀痰細胞診によった. X線のみで198例, 喀痰のみで91例, 両者により24例の肺癌を発見した. X線による発見例の平均陰影径は33mmで, 10mm以上は識別可能であった. 前年度に陰影のある症例は進行が緩徐で病期が進んでおらず多くは腺癌であった. 前年度に陰影のない症例は進行が速く扁平上皮癌が多かった. 小型の陰影で発見した場合は予後良好であったが, 診断に難渉することがあり, 開胸肺生検の適応決定が重要であることが知られた. 喀痰細胞診により発見される胸部X線写真無所見肺癌は29%を占め, その多くは早期であるため, かかる症例の適格な診断は, 集検の成否を左右するもっとも重要な課題である. 喀痰細胞所見の徹底した解析が行われ, 早期扁平上皮癌および境異病変の診断基準が確立された. 更に, かかる微細な病変の気管支内の部位同定法についても十分な検討がなされ, 気管支前支搾過法が有用であった. 早期扁平上皮癌における多中心性の発見は約15%と多いことが知られた. また, 第2癌の多くは微小な段階で第1癌と同時に診断し得る可能性が示唆された. 発見した313例のうち臨床病期I期は62%, 切除率は71%, 術後病理病期I期が49%, 早期癌が81例(26%)と, きわめて良好な切除成績であった. 昭和57年度発見の40例中5年生存は18例(45%)で, 切除した早期肺癌15例中14例が生存している. 予後の確定には時間の経過を待たなければならないが, 肺癌死亡率の減少を十分期待し得る検診方法がほぼ確立され, また, 実際にそれが広範囲の地域に実施可能であることが示された. 現在, 肺癌死亡減少を実証するための方法論的考察を行い, 計画を立案している.
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