研究概要 |
上腹部手術後に高頻度に見られる無気肺の背景には, 呼吸筋の障害, 特に横隔膜の機能障害が存在する事が最近明らかにされ, これが肺活量, FRCの著しい減少に貢献していると考えられ始めている. この横隔膜機能障害の機序は未だ, 明確にされていないが, 腹腔臓器に求心路を発する, 反射性の抑制と考えられている. この横隔膜機能障害が治療できない限り, 無気肺の頻度を減少させる事は, 不可能と考えられるが, その治療は未だ知られていない. 一方吸気時に, 100Hzの振動を胸壁に与えた場合, 換気の増大が起こることが知られており, これはtonic vibration reflex(TVR)により, 吸気肋間筋の活動増加が起こるためと説明されている. 本研究の目的は, この振動刺激を利用して, 呼吸筋の活動を増加させて, 肺容量の減少を防ぎ, ひいては無気肺を予防する事にある. 更に局所麻酔下, 鎮静剤投与の呼吸パターンへの影響も検討した. この結果, 以下のような事実が明らかになった. 1.吸気時のみの上位肋間振動刺激(以後胸壁振動)は健康人で, 換気を増加させるのみでなく, FRCを増加させる. 2.同じく健康人の横隔膜の動きのX線による観察で, 胸壁振動は横隔膜のFRC位を尾側へ移動させ, 且つその呼吸運動を著名に増幅した. 3.2の結果はrespiratory inductive plethysmography(RIP)で, 換気の増加が横隔膜の貢献度の増加を伴う形で確認できた. 4.FRCの増加は, 上腹部手術後でも見られ, 更にRIPでも換気の増加が横隔膜の貢献度の増加を伴った. 5.局麻下, 鎮静剤投与は高頻度に無呼吸と低酸素血症を生じた. 以上の結果は, 胸壁振動がTVRによる換気の増加だけでなく, 横隔膜の動きを増し, FRCの増加作用も示し, 且つ上腹部手術後の横隔膜機能障害も拮抗することを示しており, 今後の臨床応用の可能性を示唆するものである.
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